僕のメイン楽器はJiraud(ジラウド)というメーカーの5弦ベースだ。
5弦ベースを作ってかれこれ15年、4弦ベースからの付き合いも含めると20年を軽く超えている。
「はっすーはなんで楽器を変えないの?」
と聞かれることがある。
その答えのひとつはJiraudの音が好きなんだと思う。
そしてもうひとつは、沢山の楽器を所有することにあまり興味がないというか、いろいろな楽器を頻繁に取り換えていると音色の違いに対応しなきゃならないし、コントラバスとエレキベースを持ち変えるということもあり、そこにストレスを抱えたくないというのが正直なところだろうか(不器用なんですね)。
ちなみにこのJiraudというメーカーはもうない。
創設者である福田郁次郎氏が2019年にお亡くなりになられたからである。
福田さんが亡くなる前は、ことあるごとに楽器のメンテナンスをしていただいていたのだが、亡くなられてからというもの自分でできる範囲のメンテナンスは自分でやり、積極的に他工房へ出すということはしてこなかった。
が、先日どうも調子が悪くなってしまい、後輩の紹介でSleek Eliteの広瀬さんに楽器を見ていただいた。
広瀬さんのメンテナンスやセッティングは素晴らしく、楽器も快調になって帰ってきたのだが、それともうひとつ、久々に福田さんの話を沢山できたことが嬉しかった(広瀬さんも福田さんと付き合いが長かったようだ)。
福田さんは僕にとって恩人というか、エレキベースの師匠だと思っている。
19歳の頃からお店に通い始め、右手のタッチ、左手の運指、リズムの取り方、プロの厳しさなど教わったことは僕の財産だ。
しかし、過去ご本人に、
「エレキの師匠は福田さんだと思っています!」
と言ったら、
「蓮池くんにはお金をもらってレッスンしたことなんてないんだから、気を使ってそんな風に言わなくても大丈夫だよ(笑)」
と、はにかみながら断られ、そのまま旅立たれてしまったので、結局非公認のままになってしまったのだが(笑)。
また、セッティングや奏法も含め、Jiraudプレイヤー独特の福田イズム(こういう言い方が正しいかわからないが)を継承しているとはいえない面も多くある。
弦高は割と低めだし、ネックも推奨セッティングではなくまっすぐ目。ライブではコンプ繋ぎっぱなしだし、最近は強いタッチというより、フレーズも含めてレガートな奏法を目指している。
このことについては改めて書こうと思っているが、福田さんのプレイスタイルを追わないと決めてから自分というものが見えてきた部分がある気がしている。
そして「プロたるもオリジナルを追求すべし」と福田さんは言っていたので、それもまた良しだと思ってます(笑)。
さて、結局何が言いたいのかというと、改めてJiraudとの出会い、福田郁次郎さんとの出会いをブログに書いてみたいと思ったのだ。
約22年前、Jiraudの扉を開けたときのことから順番に綴ってみることにする。
楽器探しの旅
上京してバンド活動に明け暮れていた2001年のある日、先輩ミュージシャンに、
「お前のベースは音色が全然プロっぽくない。本気で音楽活動するんなら、自分に言い訳できない位の一生モノの楽器を買いなさい。」
と言われ、ひたすら楽器屋をめぐった時期があった。
しかし19歳の僕はどういう音がプロっぽい音なのか、正直分からなかった。
ただ、当時マーカス・ミラーにはまっていたので、ナチュラルな色で木目が入っているベースを買おうと心に決め、楽器探しをしていたのだ。
ある日、ベースマガジンに載っているお店が気になったので行ってみることにした。
Jiraud(ジラウド)という名のお店である。
当時Jiraudがあった場所は駒沢大学駅から歩いて15分の環七沿い。
まった遠いなぁ。。
なんてぶつぶつ言いながらお店の扉を開けると、一人の男性が出てきた。
「いらっしゃいませ。」
「あ、あの、楽器を、、探してるんですけど…」
「・・・どういった楽器を探してるのかな?」
「な、ナチュラルなベースを。。。」
「うーん、どういうのがナチュラルか分からないけど、ゆっくり見ていってください。気になるベースがあったら言ってくださいね。」
そんな風に言われたので、恐る恐る店内を見渡した。
そこには沢山のベースがあったが、まずは鮮やかな青色のブレジションベースに目が止まった。
「あ、このベース、弾いてみていいですか?」
「はい。じゃあセッティングしますので、少しお待ち下さい。」
そう言うとその男性はベースをアンプに繋ぎ、チューニングをしてからおもむろに弾き始めた。
ブンブン・ドペトゥクトゥ・ドラスカドンッベキ!!
・・・凄かった。
綺麗で図太いピチカートに、バキバキのスラップ。
なんだ!?この人!?
楽器の音色にもびっくりしたのだが、明らかに”格”が違う演奏に度肝を抜かれる蓮池。すると、
「はい、どうぞ。」
と楽器を渡された。
いやいやいや、あんなプレイを聴いた後に弾けるかい!!!
ある意味地獄であった(笑)
とりあえず楽器を触り始める蓮池。
しかし、緊張して自分が何を弾いてるか全く分からなかった。
「どうですか?良い楽器でしょ。」
「は、はい。聴いたことのない音がします。」
「この楽器はMoebius(メビウス)といって、1トーンですけどいろいろな音が出るんですよ。!”#$%&'()0・・・」
楽器について説明してくれたのだが、正直難しすぎて何を言っているのかわからなかったので「へー、すごいですね」とお茶を濁した(笑)
そして、次に目に止まったのが、木目が綺麗な1本の4弦ベース。ピックアップはジャズベタイプだったが、独特な形をした楽器であった。
「こ、これも弾いてみたいんですけど。」
と、恐る恐る男性に伝えると、また徐にセッティングをしてくれ、すごいプレイをしたのち、手渡してくれた。
こちらも緊張して何を弾いたかは覚えていないのだが(笑)、なんだかしっくりきた。
「この楽器良いですね。色もナチュラルだし、ネックの太さも好きです。」
「ナチュラルって色のことだったんだ(笑)。これは珍しい1ピースボディーなんですよ。因みに角度を変えるとパールブルーに光ります。」
そう言って男性は楽器の角度を変えて見せてくれた。
言葉通りうっすらパールブルーに光ってなんだかカッコよかった。
「この楽器はEuclid(ユークリット)といいます。ピックアップに直下型のアクセラレーターが仕込まれていて、プリアンプはJFDT-Cのフルチューン。音の立ち上がりが早くて!”#$%&'()0=・・・」
またもや難しすぎて何を言っているかわからなかったが(笑)、男性が色々弾いて聴かせてくれて、なんだかテンションが上がったのを覚えている。
「ありがとうございました。家に帰って検討してみます。」
「はい。またゆっくりいらしてください。」
帰宅して、インターネットでJiraudについて調べてみた。
Jiraud Bass Center
代表 福田郁次郎
「さだまさし」ツアーに参加。「亀山社中」としてライブ活動を開始。
・・・
めっちゃCDで聴いてた人じゃん。。
蓮池は幼少期から母の影響でさだまさしさんが大好きだった。
愛聴盤は「十五周年漂流記」というライブアルバム。
改めてクレジットを見ると「福田郁次郎 Electric Bass」と書いてある。
購入する楽器が決まった瞬間だった(笑)。
正直、諸先輩の言うプロっぽい音なのかは分からなかったが「この人の側にいたら、ベースが上手くなる気がする」と思ったからだ。
そして、父に電話でローンを組む了承をもらい、改めてお店を訪れ、
「Euclidを下さい!」
と、福田さんに言った。
2001年の8月だったかな。
19歳の少年にとって清水の舞台から飛び降りる買い物だったが(24回払いw)、無事審査も通り、晴れてJiraudオーナーになることができたのであった。
つづく