縦振動のタッチというのは、端的にいうとベーシスト故・福田郁次郎氏が提唱されていた右手の奏法であろうか。
弦をピックアップに対して垂直に振動させることで、第一倍音をしっかりとピックアップに伝え、太いサウンドを出す方法だと僕は解釈している。
正直自分のブログで縦振動のタッチについて書くことには少し抵抗があった。
福田さんはすでに亡くなっているし、あのタッチを正確に人へ伝えることはとても難しいからだ。
しかし、前回のブログで「縦振動のタッチ」という言葉を使ってしまったので(笑)、少し触れてみようという気持ちになった。
ただし、奏法云々について書くというより、福田さんに初めて縦振動のタッチについて教えてもらった日のことを中心に今の想いも合わせて書いてみたいと思う。
そして、これはあくまで蓮池個人の考えを織り交ぜて書いているものなので、そこのところは大目に見ていただきたい。
ちなみに現存する縦振動のタッチを伝えるコンテンツは、生前福田さんが投稿したYouTube動画だと思うので、興味のある方はそちらを見ていただけると良いかと思う。
ホームページにあった”縦振動のタッチ”という言葉の正体
2001年のある日、福田さんに尋ねた。
「Jiraudのホームページに書いてあった縦振動のタッチってなんですか?」
「あれ?蓮池くんにはまだ教えてなかったっけ?楽器買ってくれた人には大体最初に教えるんだけどなぁ。ちょっと待ってね。」
すると福田さんは徐にお店の奥に吊り下げられていた赤いFenderのプレベを取りに行った。
その時確かRomeo金子さんもいたような気がする。
Romeoさんはニヤッと笑って、
「沼にハマる人が増えましたね。」
と、福田さんに言った。
赤いプレベをセッティングする福田さん。
「蓮池くん、弾いてみて。」
楽器を手渡されたので、少し弾いてみた。なんの変哲もないプレベである(当時は分からなかったがオールドのめちゃ良い楽器)。
「今蓮池くんは、ピックアップに対して弦を横に振動させているんだけど、ピックアップって、横の振動を拾わないんだ。縦振動のタッチっていうのは、弦をピックアップに対して垂直に振動させてピックアップに伝えることなんだよ。」
正直何をいっているか分からなかったが、福田さんが「変わって」というので、楽器を手渡した。
「弦を横に振動させるとこんな音。」
ボーン
「はい。」
「これを縦に振動させると、」
パクーン
え?どういうこと?
正直戸惑った。
アンプのセッティングを変えるわけではなく、右手のタッチを変えただけでぶっといサウンドになったのだ。
「これが縦振動のタッチっていうんだよ。」
「は、はぁ。凄いですね…どうやるんですか?」
そういうと福田さんは僕に楽器を手渡し、やり方を教えてくれた。
「まずは3弦5フレットが分かりやすいんで、Dを押さえてみて。そして弦の上に指を置いて第一関節を反らせて弦を押さえるようにする。中指の方が簡単かな。あとは第三関節を使って振り抜く。」
ボーン
言われた通りやってみたが、全然太くない。
「違う違う。第二関節は曲げない。第3関節を使って瞬時に振り抜くんだよ。」
そういうと、僕の上から弦に指を置き、振り抜いた。
パクーン
なんだそれ(笑)
全然サウンドが違うじゃん。
「大切なのは指のヘッドスピード。難しいかもしれないけど、やってみるとコツが掴めるかもだから、しばらく弾いてみて。」
そういうとアンプの前から立ち去り、Romeoさんと談笑を始めた。
ボーン
ボーン
全然あのサウンドが出ない。
30分くらいであろうか。ひたすらお店に鳴り響くDの音(笑)
そして、
トーン
少しサウンドが変わった気がした。
すると福田さんが口を開いた。
「だいぶ良くなったんじゃない?Euclidでもできるから、あとは家で練習してみて。」
そういうと僕のEuclidを手に持ってアンプに繋ぎ、縦振動のタッチをやって見せてくれた。
「ちなみにピックアップはフロントにして、ハイをカット、ローをブーストするとわかりやすいから、練習する時やってみるといいよ。」
そういって第一回福田さんの縦振動のタッチレッスンは終了したのだ。
縦振動のタッチの追求
その後、家での練習を積み重ね、少しできるようになってきたように思う瞬間があった。
その時掴んだコツは、フロントピックアップよりネック寄りで弾き、指を斜めにして振り抜くと縦振動のタッチに近い音がでるというものだった。
そして練習の成果をもってお店に行き、福田さんに披露した。
「お、結構良い感じになってきたね。でも指を斜めにしすぎかな。その状態だと早いフレーズを弾けないし、手首を壊しちゃうよ。あくまで自然体。力を抜いて構え、第三関節で振り抜く。」
パクーン
やはり敵わなかった(笑)。
それからしばらく縦振動のタッチを必死に練習した。そして何年もかかったと思うがある程度できるようにはなった。
縦振動のタッチの追求をやめる
これはまた別の話になってしまうのだが、Jiraudに通い始めて10年くらい経ったある日、ひとつの結論に達した。
「縦振動のタッチを追求することをやめる。」
タッチを追求することは決して悪いことではない。が、楽曲に対して素晴らしいベースラインを奏でることが目的なのに、タッチに囚われすぎて、音楽的な部分が疎かになってしまっている今の自分は本末転倒だと感じたからだ。
そう思うようになってから一時期お店に行かなくなった。
福田さんに会うとどうしても影響を受けてしまう自分がいたからだ。
そして、自分の楽器セッティングを1から見直し、奏法も変えていった。
自分の体に合わせた弾き方をとことん考え、脳ミソで鳴っている音と出音が一致するよう追求した。
楽器はJiraudのままで…
久々のJiraud
ある日「好きな音が出せるようになったな」と思う瞬間が訪れた。
そして用事もあったので、久しぶりにJiradに行ってみることにした。
「お久しぶりです。Euclidの電池ボックスが調子悪いみたいなんでみてもらえますか?」
Euclidを福田さんに手渡した。
「弦高だいぶ低いみたいだね。ネックもまっすぐか。」
「はい、最近はこのセッティングにしています。」
「そうなんだ。とりあえず電池ボックスは交換しようか。」
正直「こんなセッティングはダメだ」と言われると思っていたが、福田さんは意外とあっさりしていた。
その後は改めてお店に通うようになり、福田さんとの談笑を楽しんだ。
そしてある日、福田さんがポツリといった。
「蓮池くんはタッチがいいからな。」
どんな会話の時だったか覚えていないが(笑)、この福田さんの一言は僕にとって今でも大切な宝物である。
自分と向き合い、サウンドや奏法を追求する大切さ
これを今では1番に考えながらプレイしている。
ただ一つ、最近自分の音やリハーサルなどで弾いている姿を鏡で見ると、
「あれ?これって縦振動のタッチの音とフォームじゃねぇ?」
と感じることがある。
もしかしたら、縦振動のタッチの追求をやめたことで逆に縦振動のタッチをコントロールできるようになったのかな?(笑)
福田さんのように「パクーン」という音は出せないが、それもまた僕のオリジナルなのであろう。
つづく